欧米でのお茶の歴史は、16世紀半ば過ぎに当時の貿易商たちが日本やアジア諸国のお茶文化に接したことに始まります。時には、お茶が元で歴史的な争いも起こりました。 有名な事件に、アメリカ独立戦争の発端と言われる「ボストン・ティーパーティ」や、お茶の貿易から戦争に発展したイギリスと中国の「アヘン戦争」などがあります。
紅茶の最大の生産国はインドで、次いでスリランカ、以降ケニア、トルコ、インドネシアと続きます。
一般に高い標高の冷涼な環境で栽培されるものには、香りの優れたものが多く、強い日射の低地で栽培されたものに味に優れ(ただし、比較的アクの強いものとなる)、水色の濃いものが多いとされています。
現在の紅茶の製造法は、19世紀中頃、イギリスが中国紅茶の製法を参考に、インドのアッサムチャを用いて製造した方法が改良されたもので、生産(栽培、収穫) ⇒ 萎凋 ⇒ 揉捻 ⇒ 玉解 ⇒ 篩分 ⇒ 揉捻 ⇒ 発酵 ⇒ 乾燥の工程からなります。
ヨーロッパで多く飲用されなおかつ世界で最も紅茶を飲むのはイギリス人で、朝昼晩の食事だけでなく、起床時、午前午後の休憩にもお茶を楽しんでいます。
貿易から始まる欧米の紅茶の歴史
16世紀半ば過ぎ、ポルトガル人は植民地マカオと日本との往来の中で、日本の「茶の湯文化」に接しました。
そして彼らは、お茶のための建物や器に莫大な金を払うこと、また、お茶のための作法など幅広い文化をもっていることに驚嘆しました。このことが欧米各国にお茶が伝播するきっかけとなりました。
西欧に初めてお茶を伝えたのは、オランダの東インド会社ですが(1610年)、
それは紅茶ではなく緑茶(平戸で買った日本茶、マカオでポルトガル人から買った中国茶)でした。
当時、オランダは中国やインドネシアとの東洋貿易に関して独占的な立場にあり、
同じく東インド会社を経営していたイギリスは、やむを得ずインド貿易に重点を
置いていました(インドで新種の茶樹・アッサム種が発見されたのは19世紀のことで、当時のインドにお茶はなかった)。
イギリスは、1669年にオランダ本国からのお茶の輸入を禁止する法律を制定し、宣戦布告します。
そして、英蘭戦争(1672〜1674年)に勝利を収めたイギリスは中国貿易で優位に立ちますが、
実際に中国から直接輸入したお茶がイギリスに流通したのは、15年後の1689年のことです。この年を境に、
イギリス東インド会社が基地を置く福建省厦門(あもい)のお茶が集められ、それがイギリス国内に流通するようになりました。
1720年、イギリスは輸入独占権を得ました。
厦門に集められるお茶は、すべて紅茶に似た半発酵茶「武夷茶」でした。
武夷茶は茶葉の色が黒かったことから、“black tea”と呼ばれ、やがて西欧におけるお茶の主流になりました。
さらに好みに応じて発酵度をあげた製品づくりや、製法を綿密にした「工夫紅茶」が開発され、現在の紅茶のもととなります。
1823年、イギリスの冒険家ブルースがインドのアッサム地方で自生の茶樹(アッサム種)を発見し、
後にそれが中国種とは別種の茶樹であることが確認されました。また、緑茶と紅茶の違いは製法の違いであり、原料は同じ茶樹であることが、1845年に英国人のフォーチュンによって発見されました。これらの発見により、中国種と新しいアッサム種との交配が進み、インド各地やスリランカ、バングラデシュでお茶の栽培が盛んになるのです。
イギリス人が紅茶を好んだのは、脂肪やタンパク質の消化を促進する発酵茶の作用を体験的に知っていたためといわれています。
イギリスは、大規模農法と合理的な加工法を採用し、低コストで紅茶を量産しました。
このため、世界市場を100年もの間独占していた中国紅茶は、その地位を落としていきました。
しかし、東洋的な香味の中国紅茶は、シノワズリー(CHINOISERIE : 中国趣味)として上流階級を中心にヨーロッパで珍重され、好む人も少なくありませんでした。
1870年代には、オランダもインドネシアにおいて本格的なプランテーションを開発し、自国の消費と貿易の商材としたため、
インドネシアがインド・スリランカ・ケニアとともに、世界有数の紅茶生産国となりました。
そして、紅茶の生産は第二次世界大戦後、アフリカ諸国(ケニア・マラウイ・南ア共和国など)に広がっていきます。
ロシアには、16世紀後半ころからモンゴル経由で喫茶の習慣が伝わったとされ、1689年のネルチンスク条約で対中国交易開始以降、団茶が貴族階級で飲まれるようになりました。その後の1847年に、ロシアで茶栽培が開始され、1930年代にはグルジアで本格化し、1985年には年産15トン(緑茶が4割)を誇りましたが、チェルノブイリ原発事故以降すっかりすたれてしまいました。しかし、1993年には2万トンとなり、世界の紅茶相場に大きな影響を及ぼしています。
エリアティー
産地別の紅茶のことをエリアティー(Area Tea)、もしくはガーデンティー(Garden Tea)と呼びます。 特に新鮮な茶葉をフレッシュティーと呼んだりもします。
チャの木の種類
紅茶はチャの木からつくられ、日本茶も烏龍茶のもチャの木からつくられます。
お茶の種類は発酵度によって決まり、生の茶葉から緑茶に代表される不発酵茶、烏龍茶などの半発酵茶、そして紅茶に代表される発酵茶の三種類のお茶ができます。
大まかに分けて2種類のチャの木があり、インドチャ(アッサム種)と中国チャに分類されます。
アッサム種は一枚の葉がとても大きく厚さもうすい上、色も薄めのため摘み取ってすぐに発酵がはじまり、早く発酵が進む紅茶向きの茶葉です。中国種は葉は小さめで、色も濃い厚めの葉です。日本茶は中国種の茶葉です。
基本的に、中国紅茶は中国種、アッサム紅茶はアッサム種ですが、インドのダージリンは中国種です。
セイロンはアッサム種で、この違いは歴史的な背景があります。
最初、茶の栽培を手掛けたイギリスは中国の茶を植民地に植えまくりました。
なかでもインドのダージリン地方が中国種の生育にとても合い、そこに一大茶園を築き上げ、
今では紅茶のなかで一番の生産地となりました。
アッサム種は偶然、アッサム地方で発見され、その生産に力を入れたところ、中国種とは違う力強くこくのある紅茶がつくられるようになりました。
もともとコーヒーの世界的生産国だったスリランカ(セイロン)が、コーヒーの木のサビ病で全滅という自体になり、その対策で紅茶の木を移植したのが今のセイロンのはじまりだそうです。
そのため、ダージリンは中国種、アッサム、セイロンはアッサム種という違いが生まれたのです。
紅茶の故郷
- インド
- インドは世界最大の紅茶生産国。世界の紅茶の約半分ほどを生産しています。
- スリランカ(セイロン)
- インド洋の真珠とあだ名されるセイロン島(正式国名スリランカ)は、もともとイギリスの植民地時代を経て、1948年独立しました。コーヒーの世界的栽培地として名を馳せていたのですが、コーヒーの木が伝染病で全滅にあい、イギリスがそれを紅茶に植え替えて今のような紅茶大国が出来上がりました。 アッサム種の栽培が盛んで、一年を通して茶摘みが可能です。山の高さにより紅茶の個性に変化が現れます。 もっとも高地のハイグロウン(high grown)は薫り高く、高い評価の紅茶が生産されます。 それより低いミディアムグロウン(medium grown)は、ハイグロウンより軽めで飲みやすく、草いきれのある爽やかな薫りがあります。一番低いロウグロウン(low grown)は濃厚な風味がある、濃い水色の紅茶で香りは薄く味もあまりないので紅茶としては中級品から低級品ですが、ブレンド用やミルクティーに使われます。多くはBOPに加工され、一部CTCもつくられているようです。
- 中国
- 紅茶発祥の地、というよりお茶の発祥の地中国。中国といえば、紅茶よりも烏龍茶などが有名ですが、中国ではすべての種類のお茶がつくられるといっても過言ではありません。ヨーロッパ人は最初緑茶を輸入していましたが、だんだんと発酵度の高い紅茶に変わっていきました。 理由としては、中国貿易が軌道に乗りいろんな茶を輸入するうちに、肉中心の食生活のヨーロッパでは蛋白質の消化に効果のある完全発酵茶が好まれるようになったためのようです。そして、緑茶は緑色のため、干し草や柳の葉を混ぜた不良品が横行し始め、緑茶の売れ行きが落ちたこと。貴族の使った出がらしの茶殻をうったり、ニワトコの葉を茶といって売る商人もいたそうです。現在中国で生産される紅茶は90%輸出され、国内消費はほとんどありません。
- 東アフリカ
- 1900年代からケニアで急速な紅茶栽培が発展しました。 紅茶栽培の新顔としては出世頭。
- インドネシア
- 第二次大戦前までは有数の生産国だったが、戦争と内紛などで茶園が荒廃していました。最近、ジャワ島、スマトラ島を中心に盛り返しを見せはじめました。
生産国 | 種類 | 特 徴 |
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インド | ダージリン (Darjeeling) |
とても香り高い茶葉で、「紅茶のシャンペン」の異名を持つ世界三大紅茶の一つ。 インドの西ベンガル州の北端、ヒマラヤ山岳地帯2300メートルの高山でつくられます。 この街は避暑地としても有名。ダージリン地方は300メートルから2200メートルまでの 険しい斜面にビッシリと茶園が広がっています。 直射日光が強く、昼夜の寒暖の差が激しく、濃い霧が発生する地形がダージリン特有の甘くフルーティーない香りを生み出します。 味は渋みが強く、水色はうすい橙色から山吹色、金色で紅茶の色としてはとても薄いです。特徴である香りを生かすために、ほとんどの茶はOPタイプに仕上げられます。 紅茶は季節により違った味わいの紅茶が生まれます。特に薫りや味に変化がでて、上質の茶葉がとれる時期を クォリティーシーズンと呼びます。ダージリンはそれぞれの時期によりずいぶん味わいが変わってきます。
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アッサム (Assam) |
インドで一番大きな面積を持つ生産地。プラマプトラ河流域の渓谷地帯に広がる広大な平野。
インド大陸でももっとも茶の生産に適した土地で、インド紅茶の3分の2の生産量を誇ります。
肥沃な土地で栽培されるアッサム種で、水色も大変濃く、深紅色から橙色の強い色が特徴。 味もこくがあり、甘い香りと濃厚な渋みがあります。タンニンの量が大変多いので、 普通に入れてしばらくして紅茶が冷めたりしただけでも牛乳を入れたような色にクリームダウンしてしまう事も。 ミルクティーには最適で、こくのある紅茶が引き立ちます。薄めに入れるとあっさりと飲みやすく、甘さが引き立ちます。 ゴールデンチップス(金の芽)が多く含まれるのがアッサムの特徴で、黒褐色のよりがよく効いて整った茶葉に黄色がかったチップが多く含まれているものほど上等とされます。香りはソフトで、新鮮なものは花のような香りが強く漂います。特に上等な茶葉は、まるで洋酒のような芳醇さがあるといいます。 CTC茶葉が多く製産されており、全体の80%はCTCが占めています。CTCは抽出が早いので、 ティーバッグによく加工されます。ただ薫りがそれほど望めないのが短所と言えますが、 アッサムのこくを楽しむミルクティーにとても需要があります。 アッサムのクォリティーシーズンは、それほど有名ではありません。一年中安定した茶葉が大量に生産されるためです。 しかし、一部では高品質の茶葉でクォリティーシーズンのものが日本にも輸入されています。
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ニルギリ (Nilgiri) |
南インド、西ガーツ山脈の高地で生産されます。ニルギリとは現地の言葉で「ブルーマウンテン」という意味。 もともと中国種のチャを栽培しようと、試験的に植えられた土地で、2,000本ほども中国種の茶樹を植えたのですが、たった20本ほどしか残りませんでした。その後も中国種を植え続けた結果、現地のアッサム種と交雑し、現在のニルギリ茶になりました。 環境がセイロンとよく似ているため、風味はセイロンとよく似ていますがやや淡泊です。味はオーソドックスで、薫りも少なく水色も薄い軽い苦みが特徴といえば特徴、というあまり個性の少ない紅茶です。そのため有名茶にはなりにくく、多くはブレンドに使われます。中国種とアッサム種の雑種の為ブレンドの緩衝材としてはすぐれており、インド紅茶とセイロン紅茶両方の特徴を併せ持つツナギとして利用されます。またアイスティーにするのも向いている紅茶です。 |
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スリランカ (セイロン) |
ウバ (Uva) |
セイロンのなかでも一番の高級茶で、世界三大紅茶の一つ。南東山岳地帯のハイグロウンで生産される。
濃い水色と渋みが特徴で、ほんのりと甘く花のような薫りがたつ。ゴールデンリングと呼ばれるカップの内側に金色の輪が浮かぶ姿が見えるなど、いろいろと紅茶好きをうならせる。こくのある味はミルクティーにも負けない。 クォリティーシーズンは8〜9月で、季節風の影響で特に上質の茶葉ができる。水色は深紅色の美しい赤色、 香りは薔薇やすみれの花にメンソールの爽やかな香りとフルーツの甘やかな薫りがあり、刺激的な渋みに芳醇なこくもあるこれぞ紅茶というものが出来る。 |
ヌワラエリヤ (Nuwara Eliya) |
ハイグロウンの特徴的な紅茶。霧のでる地形で、ダージリンと少し似た香りがある。セイロンのなかでは一番薫り高い。 水色は薄く、黄色がかった橙紅色。若草のような匂いと花の薫りが特徴的。味は渋みの強い、あっさりした風味。 香りをいかしたストレートが一番楽しめるが、洋酒を加えたり、ものによってはミルクティーにも。渋みが強いため、抽出時間は短めに2分から2分半を目安に。入れっぱなしにすると苦みばかりが強く出てくるので、別のポットに移し替えると良い。クォリティーシーズンは1〜2月摘みのもの。 |
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ディンブラ (Dimbula) |
どちらかというと高地で栽培される紅茶としてはマイルドな風味。薔薇の香りがする、というのがディンブラのキャッチフレーズでこく、渋み、香り共に個性はハッキリしているのに押し付けがましくない万人向けの紅茶。 ミルクティーにしても美味しく、ストレートでもアイスにしても充分楽しめる上、スピリッツティーやジャムティーとしても楽しめるお得な紅茶。迷ったら、とりあえずディンブラで。 ただ、品質にばらつきはあるので、その辺りを注意すること。渋みが強いものもあれば、こくのないものもあるので、自分の好みを見つけるのも重要。クォリティーシーズンは1〜2月。 |
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ルフナ (Ruhuna) |
ローグロウンの紅茶。濃厚で重い渋みがあり、スモーキーさもある。 香りははちみつのような甘さを含み、苦みはあまりない。水色はやや紫味を帯びた赤色で、ミルクティーに利用される。 |
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キャンディ (Kandy) |
セイロンの古都で、この街から30キロ南東のルーラコンデラの地でセイロンの紅茶ははじめて栽培がはじまった。 軽くマイルドな風味、輝きのある赤い水色が特徴。紅茶としては低級品扱いだが、アイスティーにとてもよく向く。 フルーツティーやハーブブレンドのベースにも最適。ものによってはローグロウンの特長を生かし、ミルクティー向きのこくのある茶葉もある。 |
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中 国 | キームン (邪門・ Keemun) |
安徽省西南部、黄山地区で栽培される。OPタイプの細くしっかりしたよりのある茶葉。 味はスモーキーで渋みがあるが甘みもある。香りは蘭の花、リンゴやフルーツにたとえられるが、ごく上等の茶葉でないとはっきりとはわかりにくい。鮮やかな赤色の水色で、ブラックティーまたはミルクティーに。イギリスでは特にミルクティーにするのが好まれる。 フレーバードティーのベースにもよく使われる。アールグレイはキームンベースがもともとのレシピ。 |
東アフリカ | ケニア(Kenya) | 標高2,000メートルの大高原に茶園がある。ほとんどがCTC。水色も明るい赤色、渋みも少なく飲みやすい紅茶。アイスティーやバリエーションティーに。 |
インドネシア | ジャワ(Java) | 缶紅茶で名前が知られるようになった紅茶。 リーフはそれほど一般的ではないが、赤い水色と甘みのある味わいが気軽に飲める。 |